お知らせ

イスタンブールを旅してきました。目的は、ミマール・シナン(正しい発音はスィナン)の建てたモスクやメドレセ・ハマムなどや、ビザンティン帝国時代の聖堂の見学でした。でも、修復中のものもあり、外観すら望めないところも多く・・・ 詳しい事柄は忘れへんうちにに記事をのせます。

2013年8月28日水曜日

ペロポネソス半島3 エピダウロス3 考古博物館に神殿の上部構造


エピダウロス遺跡はアスクレピオスの神域だったところで、その中には小さな神殿が幾つかあった。

エピダウロスの考古学博物館は、内部が極端に幅が狭い。その中に神殿や門が部分的に復元されている。
撮影が許可されている博物館では、いつも作品を写したら、その前あるいは横にある小さな説明も写すことにしている。そうでないと、莫大な量を写すので、覚えていられないからだ。それなのに、この博物館ではそれを忘れて、ひたすら作品ばかり撮っていた。従って、作品の名称や作成年代のわからないものがたくさんあった。
そういう時のために図録を購入するのだが、図録もないのだった。

⑩ プロピュライア 前330年代
『古代ギリシア遺跡事典』は、神域への正面玄関(プロピュライア)は、現在では遺跡構内のもっとも北の外れに位置しているが、古代にはもちろん参詣者はこの門をくぐって、その南に広がる神域に足を踏み入れていた。前330年代に構築されたこの門は、北側にイオニア式、南側にコリントス式の円柱を配する立派なものだったが、現存するのは重厚な石製の基壇部分だけであるという。
入って第1室の奥、左側に門の北側、右側に門の南側が復元されているが、その円柱の短さ、そして石の風化が異様だった。
門北側
軒の下側にデンティル。垂木の木口が並んださまが、デンティル(歯形装飾)という独特の装飾モティーフになった(『世界美術大全集3エーゲ海とギリシア・アルカイック』より)という。

日本の建物なら屋根の先には軒丸瓦と軒平瓦が交互にならんでいるが、この神殿には、テラコッタのアカンサス唐草の軒平瓦?の間にライオンの頭の樋口が入り、ライオンの頭と頭の間にはパルメットのアクロテリオンが飾られている。
下顎は復元されたものだが、ライオンの表情やずらりと並んだ歯。
アーキトレーヴは石材で、メトープやトリグリフはない。
これがヒツジの角をデザイン化したと言われる渦巻のイオニア式柱頭?石灰岩のため風化がひどい。
復元されたものでこそ、そうとわかるが・・・
門の南側
帰国後『古代ギリシア遺跡事典』で確かめるまでは、これが何かさっぱりわからなかった。
柱頭はコリント式
アーキトレーヴは石材、トリグリフやメトープはない。コーニスには花弁と牛の頭蓋骨が交互に並んでいる。軒飾りはない。

第2室
⑥ アスクレピオス神殿 前380-370年頃
『世界美術大全集4ギリシア・クラシックとヘレニズム』は、アスクレピオス神殿は、神殿の東20mの所で発見された碑銘に貴重な建造記録を残している。建築家が、この銘文にのみその名を残すテオドトスであったこと、彫刻を含めた神殿の建造に4年8ヵ月10日を要したこと、本尊アスクレピオス神の黄金象牙像の作者であるトラシュメデスが建築の内部装飾にも従事したこと、彫刻家ティモテオスが彫刻全体のモデルを制作したこと、などという。
トリグリフの間のメトープには浮彫が残っていない。
『世界美術大全集3エーゲ海とギリシア・アルカイック』は、アーキトレーヴの上に繰り返されるトリグリフとメトープは、周柱廊の天井梁の木口とその間の空隙を埋める羽目板を表すとされているという。
コーニスの下側に等間隔に四角い板が出ていて、その中に等間隔で丸い出っ張りが並んでいる。
これはグッタエ(露玉装飾)付きの小板(ムトゥルス)で、軒先に木釘で留められた垂木を表している(『世界美術大全集3エーゲ海とギリシア・アルカイック』より)
彩色の跡がよくわかる。白く塗った後で、赤い色を差したことがわかるくらい、よく残っている。
おそらくアスクレピオス神殿のメトープだったと思われる高浮彫のアスクレピオス神像。
アクロテリオンと呼ばれる屋根飾り
『世界美術大全集4』は、トロイア落城(イリウペルシス)を主題にした東破風とアマゾノマキアを主題にした西破風、さらに東西のアクロテリアからの多数の丸彫り彫刻や断片が残存している。総体的に語れることは、豊麗様式の無意味な装飾的要素が極力取り除かれたことである。それに代わって人物像は重い内実を伴った存在感を獲得し、三次元の空間のなかでエネルギッシュな本質的な動きをみせているという。
博物館に展示されているのは、アテネ国立考古博物館蔵のコピーだった。
西破風頂部の像
西破風右端の像
横から見ると

⑪ アルテミス神殿 前4世紀
トリグリフの下にもグッタエが一列に並んでいる。
左上にアクロテリオンの像があるのだが、ほとんどわからない。
幸い『CORINTHIA-ARGOLIDA』に図版があった。これは当博物館の所蔵品。
アルテミス女神だろうか。
軒飾りがライオンではなく、犬のような動物になっていて、珍しい。
頂上飾り(アクロテリオン)
軒飾りの動物と唐草文についてはこちら

       エピダウロス2 アスクレピオスの神域← →エピダウロス4 トロス

関連項目
ギリシア神殿5 軒飾りと唐草文
エピダウロス1 大劇場


※参考文献
「古代ギリシア遺跡事典」 周藤芳幸・澤田典子 2004年 東京堂出版
「CORINTHIA-ARGOLIDA」 Elsi Spathari 2010年 HESPEROS EDITIONS
「ギリシア美術紀行」 福部信敏 1987年 時事通信社
「世界美術大全集3 エーゲ海とギリシア・アルカイック」 1997年 小学館
「世界美術大全集4 ギリシア・クラシックとヘレニズム」 1995年 小学館