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イスタンブールを旅してきました。目的は、ミマール・シナン(正しい発音はスィナン)の建てたモスクやメドレセ・ハマムなどや、ビザンティン帝国時代の聖堂の見学でした。でも、修復中のものもあり、外観すら望めないところも多く・・・ 詳しい事柄は忘れへんうちにに記事をのせます。

2013年9月16日月曜日

ペロポネソス半島4 ミケーネ7 博物館2 土偶


祭祀センターはフレスコ画で荘厳されていた。その幾つかの部屋の一番奥まった小さな部屋に偶像の部屋というのがある。

『世界美術大全集3エーゲ海とギリシア・アルカイック』は、「神殿」と名付けられた部屋は、階段によって一際高い「偶像の部屋」へと続いている。土偶たちはここから出土した作品のほんの一部に過ぎない。「轆轤で作られたこけし人形のような下半身、僅かに隆起した胸部(男女の比率大体半々)、すべて矮小な両手を肩より高く挙げて、なにごとか身振りをしている。この発掘にたずさわったテイラーは、すべての偶像が、それぞれ異なった属性をもつ神であると見倣し、先のフレスコ画の三女性をも含めて、位階の差はあっても、それらすべてに神格を認めているという。
フレスコ画の三女性についてはこちら
土偶は八百万の神々だった。このような土偶が作られたのは、前1250-1180年(『CORINTHIA-ARGOLIDA』より)という。
また同書は、祭祀センターは前13世紀末に破壊されたというが偶像の部屋は小さく片隅にあったので、その破壊を免れたのだろう。
その破壊が前1200年のカタストロフ(『図説ギリシア』より)だったのだろうが、土偶はそのカタストロフの年代を挟んで作られ続けたということになる。

別のコーナーには偶像の部屋にあった土偶に似たものと、同じ部屋から発見された蛇の土偶などと一緒に、もっと小さな土偶も数点展示されていた。
このコーナーの遺物は、どんな意味合いで配置されただろう。

入口から近いところには上の小さな土偶に似たものだけが展示されているケースがあった。

ミケーネの女性土偶 
左上から時代を追って並べてある。面白い展示の仕方だ。左上の①が一番古く前1400-1350年、右下の㉔が一番新しく前1180-1050年と、祭祀センターの神々に比べて作られた年代に幅がある。
縦縞の衣装のものが多いが、中には⑭のように横縞のものもある。また縦縞は上着が多いが、③のようにワンピースのように裾まで続いているものもある。
縦縞の衣装を閉じたものと開いたもの。頭部は小さく、横から見たら鳥の顔に見えるのではないだろうか。

5:Phiタイプ LHⅢB(前1300-1180年) Kalcani、石室墓E墓出土
6:Psiタイプ LHⅢA2(前1350-1300年) Petsasの家グループ、f部屋出土
このような土偶は墓からも家屋からも出土している。
11:Tauタイプ LHⅢB1(前1300-1250年頃) 西の家出土 
12:Psiタイプ LHⅢB(前1300-1180年頃) Vlachostrata4墓出土
両手を広げていない像は家屋から、広げている像は墓からという法則もないようだ。
出土した場所から類推すると、小さな土偶は、個人的な祈りあるいは魔除けのようなものとして使用され、もっと大きな土偶は、祭祀センターで、ミケーネの国家としての祭事に関わる行事に使用されたのだろう。

このタイプの土偶は他でも見たという記憶があった。ギリシアの他の博物館で見たのだろうか、いやもっと以前だったような。それは他の物を探している時に見つかった。ダマスカスのシリア国立博物館でだった。

地母神像 前14世紀 シリア、ラス・シャムラ出土 左:高さ10.7㎝ 右:高さ12㎝ ダマスカス、シリア国立博物館蔵
『世界の博物館18シリア国立博物館』は、オリエント、地中海地域に広く分布する地母神像の一様式をなす作品。同じ形式のものが、ギリシアのミュケーネ時代の諸都市から発見されている。羽を広げた鳥を思わせるのびやかな形姿、豊かな胸が像のボリューム感をもりあげている。朱、茶のたっぷりとした線が目鼻と棟もと一帯にほどこされ、ケープ状のゆったりした着物を表現しているという。
ミケーネのこのタイプの土偶は女神とも地母神ともわからなかった(説明にはちゃんと書いてあったかも)が、シリアで出土したものは地母神像と明記されている。
かなりの広範囲で、同時代に、同じような形の地母神像が祀られていたのだなあ。

そして、上記2種類の土偶とは全く異なるのではないかと思われる土偶が「西の館」と呼ばれる建物から発見されている。
あまりよく写せていないが、スフィンクスや人物の顔に笑みが浮かんでいるのでアルカイック期のものではないかと思う。
スフィンクスやニワトリは建物の棟飾りだろうか。神像というよりも、建物のミニチュアに配置したのでは。
それだけではない。この土偶、といよりテラコッタの人形は、膝と腰の関節部が動くように作られていて、操り人形のようだ。
また、スフィンクスも人形も帽子を被っている。
西の館は城壁より外側、円形墓域Bに近い建物群の一つ。下図の⑯

ミケーネ6 博物館1 祭祀センターのフレスコ画 
                         →ミケーネ8 博物館3 渦巻文は様々なものに

関連項目
オリンピア考古博物館1 ミケーネ時代
ミケーネ9 アトレウスの宝庫はトロス墓
ミケーネ5 メガロン
ミケーネ4 アクロポリス
ミケーネ3 円形墓域A
ミケーネ2 ライオン門
ミケーネ1 円形墓域B

※参考文献
「CORINTHIA-ARGOLIDA」 ELSI SPATHARI 2010年 HERPEROS EDITIONS
「世界の博物館18 シリア国立博物館」 
「世界美術大全集3 エーゲ海とギリシア・アルカイック」 1997年 小学館