お知らせ

イスタンブールを旅してきました。目的は、ミマール・シナン(正しい発音はスィナン)の建てたモスクやメドレセ・ハマムなどや、ビザンティン帝国時代の聖堂の見学でした。でも、修復中のものもあり、外観すら望めないところも多く・・・ 詳しい事柄は忘れへんうちにに記事をのせます。

2015年6月18日木曜日

シャーヒ・ズィンダ廟群3 アミール・ザーデ廟


シャーヒ・ズィンダ廟群は5:夏用のモスクを過ぎると第2のチョルタックまで階段になっている。38段あるのだが、上がる時と下りる時に段の数が同じだと願いが叶うと言われている。
10 支えの壁
11 階段と第2のチョルタック

この日は日曜日だったので、観光客だけでなく、地元やよそから来た巡礼者も多く、見学するのも大変だった。
階段の向こうに見える2つのドームは、12:アミール・ザーデ廟と13:トグル・テキン廟のもの。当初からこんなドームだったのかな。それとも二重殻ドームの内側だけが残っているのかな。
第2のチョルタック前から見下ろす。
登る時と下りる時の段数は同じだったが、願い事をせずに登っていた。というよりも、願い事と言われても、欲どおしい私には願いはたくさんあり過ぎて、とっさには選べないのだ。でも、ウズベキスタンに来たいという願いはこうして叶っているので、それでええかな。

タイミングによっては、人が少ないこともある。

しかし、チョルタックの向こうは人でいっぱい。シャーヒ・ズィンダ廟群にはタイルを見に来たというのに、これでは写真が思うように写せない。
この先はタイルで飾られた廟が両側に並んでいるのに、それを撮影することさえできなかった。
『世界美術大全集東洋編17イスラーム』は、15世紀のティムール朝に発達したタイルの技法の例は、すべてシャーヒ・ズィンデ墓廟群に見ることができる。イランと中央アジアで完成を見たタイルの技法としては、ティームール朝以前から使われてきたラスター彩と上絵付のラージュヴァルディーナ彩、14世紀後半から15世紀初期に中央アジアで発達したクエルダ・セカなどが継続して使われた。新たに発達したモザイク・タイルは、多様な形のタイル小片を組み合わせて装飾文様を表す技法で、諸技法のなかで最も手間がかかるが、完成度の高いものの美しさは格別である。このほかに無釉レンガと組み合わせて使う施釉レンガ(バンナーイ)などがあるという。
これらの技法の幾つを確認できるだろうか。
シャーヒ・ズィンダ廟群で、第2のチョルタックをくぐると、左にアム-ル・ザデ廟、右にトグル・テキン廟が迫ってくる。

12 アミール・ザーデ廟 AMIRZADE MAUSOLEUM 1386年
チョルタックを抜けてすぐ左側にある。遠方からは、焼成レンガ(テラコッタ)の低いドームが見えていた。
『中央アジアの傑作サマルカンド』は、14世紀末、シャディ・ムルク廟の南方にアムール・ザデ廟が増築された。
この廟の装飾には様々な形のマジョリカが多くみられるという。
マジョリカは絵付けタイルの総称のようだった。

浅いイーワーンにも浮彫タイルや絵付けタイルなどが鏤められている。
この壁面は絵付けタイルばかり。
もっと拡大すると、微妙に凹凸があった。これも浮彫タイルかな。

壁面には透彫タイル、浮彫タイル、イスラームの文字をハフト・ランギーで描いたタイルなど。
『世界のタイル・日本のタイル』は、鮮やかな色彩を用いた明快な文様が特徴のクエルダ・セカは、油性の顔料で輪郭を描いたのち、各面を色釉で塗りつぶして焼成したものである。顔料は燃えてしまうため、輪郭線が色釉の部分よりも凹んだ状態で残る。イスラーム支配下にあったスペインでも用いられ、クエルダ・セカという名称もスペイン語から生まれた。本来は「乾燥した紐」を意味するという。
クエルダ・セカはペルシア語ではハフト・ランギーと呼ばれている。
詳しくはこちら
トルコ・ブルーの唐花文のような八弁の花と、その周囲のコバルト・ブルーの蔓のからみ合った文様は、みごとな浮彫タイル。
『COLOUR AND SYMBOLISM IN ISLAMIC ARCHITECTURE』は、この八弁花文を中国の影響を受けた蓮の花としている。

その下には植物文を複雑に組み合わせたハフト・ランギーの大きな面のタイル。
その下側の大型パネルの幾何学文は、それぞれ六角形のタイルに絵付けしたもの。
左下は同じ文様の六角形タイルを貼り合わせて、もっと複雑な幾何学文をつくっているが、よく見るとタイルの表面に凹凸がある。これはクエンカ技法だろう。クエンカはスペイン語で、中央アジアではどのように呼ばれているのかはわからない。
『世界のタイル・日本のタイル』は、クエンカ技法は、型を使い、輪郭を残して文様部分を凹ませ、この凹部に色釉を詰めて焼成するもの。モザイクに近い効果が得られるという。

付け柱の浮彫タイルは、かなりラフだった。
修復時のものかも。

中に入ると複数の棺がある。しかしイスラームでは、遺体の安置された棺は地下にあり、人の入ることのできる階には、同じ位置に棺だけが置かれている。
同書は、奥の部屋には、それぞれ壁に3つの尖頭のニッチがある。アーチのカンバス8面体の上に、追加のアーチ帯が載せられたという。
アーチのカンバス8面体というのは、正方形壁面から円形のドームを架構する、四隅のスキンチと壁面の中央部の計8つの面のことだろう。
加えられたこのアーチ帯は、高いドームと奥の内部に、軽快さと上方に向けたイメージを持っているという。
確かに、正方形の壁面の上にスキンチのある段、ドームというような積み重ねよりも、その間に小さな16のアーチ列があった方が、軽快感がある。
スキンチはムカルナスでもなく、漆喰でなめらかにカーブする一つの曲面となっている。その外側の門構えのような部分、さらに外枠と徐々に外にせり出している。その面で正八角形を作り出している。
現在は白いだけの内部だが、創建当初は、タイルまたはフレスコ画などによって装飾されていたのだろうか。

          シャーヒ・ズィンダ廟群2 2つのドームの廟
                       →シャーヒ・ズィンダ廟群4 トグル・テキン廟

関連項目
ウズベキスタンのイーワーンの変遷
イーワーンの変遷
ハフト・ランギーの起源は浮彫タイル
シャーヒ・ズィンダ廟群の浮彫タイル1
浮彫タイルは浮き出しタイルとは別物
浮彫施釉タイルの起源は漆喰装飾や浮彫焼成レンガ
世界のタイル博物館5 クエルダ・セカとクエンカ技法
世界のタイル博物館6 クエルダセカのタイル
シャーヒ・ズィンダ廟群5 シャディ・ムルク・アガ廟

※参考文献
「中央アジアの傑作 サマルカンド」 アラポフ A.V. 2008年 SMI・アジア出版社
「世界のタイル・日本のタイル」 世界のタイル博物館編 2000年 INAX出版
「世界美術大全集東洋編17 イスラーム」 1999年 小学館
「COLOUR AND SYMBOLISM IN ISLAMIC ARCHITECTURE」 1996年 Thames and Hudson Ltd.London