お知らせ

イスタンブールを旅してきました。目的は、ミマール・シナン(正しい発音はスィナン)の建てたモスクやメドレセ・ハマムなどや、ビザンティン帝国時代の聖堂の見学でした。でも、修復中のものもあり、外観すら望めないところも多く・・・ 詳しい事柄は忘れへんうちにに記事をのせます。

2011年1月9日日曜日

4-3 サン・クレメンテ教会の下には4世紀の教会

北側廊の東端に売店があった。そこからガラス戸を開けて地下に下りる人たちがいた。薄い図録を2冊求め、地下へのガラス戸を指さした。1人5ユーロ、ここではローマ・パスは使えないだろうと思ったので、出さなかった。
サン・クレメンテ教会は地上の教会の下に4世紀に創建された教会の遺構がある。数あるローマの初期キリスト教会の中でこのサン・クレメンテ教会を選んだ理由の一つは、コロッセオなどに近いからだが、このように地上の教会の下に古い教会があるというのが珍しかったからだ。
『イタリアの初期キリスト教聖堂』は、旧聖堂は1084年、ノルマン人の掠奪によって破壊され、現聖堂はその基礎の上に急いで建造された。したがってその平面は、ほぼ重なっており、空間構成やスケールもおおよそ保たれていると考えてよいという。
この平面図は地上階のものだが、この図で地下の部屋割りもほぼわかるというわけだ。
以下の教会の部分は『SAN CLEMENTE ROMA』による。

ナルテックスまたはポーチ(玄関廊または拝廊と訳されることが多いが、以下ナルテックスとする) 4世紀
両側の浅い壁龕に石棺が置かれたり、壁画の残った廊下のようなところに出た。これが地上階の平面にもあるナルテックスにあたる部分だ。
『イタリアの初期キリスト教聖堂』は、地下の旧聖堂には上の聖堂を支えるための様々な構造が加えられていて、当初の空間を感ずることは難しいという。

交差ヴォールト天井になっているが、コロッセオの交差ヴォールトに比べると平たいのはそのせいかも。
奥には柱頭があったり、建物の部材が壁面に飾られていたりする。右側に身廊の照明が見えている。奥の照明された部屋は南側廊になる。
身廊への通路の手前(矢印)に壁画が残っている。
『SAN CLEMENTE ROMA』は、聖クレメンテの「アクタ」を元にしている。下の絵はアゾフ海で上げ潮で奇跡的に生還した子供、その下はこの絵を奉納した人々で、中央の円の中には聖クレメンテその人が表されているという。
上中央にはドームのある家が描かれ、ドームから白い幕が下がって柱に結ばれている。ドームの下に祭壇のようなものが置かれている。天井から壺型ランプが3つ吊り下げられている。キリスト教会を表しているのだろう。その周囲には魚が泳いでいるので、高潮のようなものが教会まで押し寄せたのを表しているのだろう。
祭壇の前には子供を抱き起こす婦人がいて、その左には子供を抱く婦人がいる。異時同図で高潮で奇跡的に助かった子供が母のもとに戻るまでが表されている。
身廊前半
ナルテックスに漏れる身廊の照明に導かれて身廊へ入っち。身廊内部は柱列が複雑だった。地上の建物を支えるために余計な柱が造られたのだろう。
入口左の壁画
この壁画の主題は議論をかもした。キリストの昇天かマリアの被昇天だろうという。

空中には、4人の天使が支えるマンドルラの中に坐る玉座のキリスト。その下にはオランス型のマリア、マリアには頭光がある。マリアの足元には何かが取り付けられていたようだ。両側には十二使徒、両端には聖クレメンテとシシニウス?
聖クレメンテとシシニウス 壁画
身廊の中央に開口部があり、それよりも後陣寄り左側には部分的とはいえ壁画がよく残っていた。図録には「聖クレメンテとシシニウス」とだけしか書かれていないので、どのような出来事を表しているのかわからない。文字帯と文様帯の下は、サン・クレメンテ教会を建立している場面かも。
上の壁画は下の写真矢印のところにあたる。身廊の奥には祭壇があった。左の開口部から南側廊へ出た。
南側廊 4世紀
左端は聖シリル(869年)の墓であると推定されている。そこには1929年と1952年にスラブ人が彼のモニュメントを建てたという。
こちらはもっと平たいヴォールト天井で、平たいアーチに補強の梁が通っているような黒い切石による補強がされている。
奥の照明はナルテックスからのもの。
聖シリルのモザイク 20世紀
何やら新しそうだと思った。
北側廊
側廊の方が柱がなくすっきりとしている。
最後の審判?(中央上寄りの下矢印) 885年頃
最後の審判を受ける前の人たちだろうか。
玉座の聖母子(右手前壁龕、矢印) 8世紀 
ビザンチン様式とだけ解説がある。ビザンチン帝国では、726-843年(中間期を含む)の間イコノクラスム(聖像破壊運動)のために、ほとんどのキリスト教美術が失われたので、8世紀のビザンチン様式ならばローマにあるといっても貴重なものだ。

サン・クレメンテ教会の見所はこれだけではない。


※参考文献
「建築巡礼12 イタリアの初期キリスト教聖堂」(香山壽夫・香山玲子 1999年 丸善株式会社)
「建築と都市の美学 イタリアⅡ 神聖 初期キリスト教・ビザンティン・ロマネスク」(監修陣内秀信 2000年 コンフォルト・ギャラリー)
「イラスト資料 世界の建築」(古宇田實・斉藤茂三郎 1996年 マール社)
「SAN CLEMENTE ROMA」(発行年・出版社不明)