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イスタンブールを旅してきました。目的は、ミマール・シナン(正しい発音はスィナン)の建てたモスクやメドレセ・ハマムなどや、ビザンティン帝国時代の聖堂の見学でした。でも、修復中のものもあり、外観すら望めないところも多く・・・ 詳しい事柄は忘れへんうちにに記事をのせます。

2015年6月8日月曜日

サマルカンド歴史博物館4 宮殿の壁画2



南壁 
玉座の間の壁画を、部屋の壁画として、ガラスで仕切ることなく展示され、しかも写真が撮れるということは幸運であるが、なかなか一つの壁面総てを画面に収めることはできない。広すぎるのと、見学者たちがいるからだ。

同館で買った絵葉書には、上の写真中央にあるような壁画の想像復元図があった。
『中央アジアの傑作サマルカンド』は、センターのホールの南側の壁には、7世紀後半に統治していたワルフマンがイッシュヒッドの結婚式を訪問する様子が描かれている。
壁画では、結婚式の一行を、チャガニアン王国の娘である白い象に乗った花嫁が率いている。そして、彼女を仲間たちやらくだと馬に乗った上流階級の人々が随行する。その次に騎乗者として描かれているのは、イッシュヒッドであるという。
しかし、『ソグドの美術と言語』は、馬や駱駝に乗った人々の行列が描かれている。白いマスクで口を覆ったゾロアスター教の神官の姿も見られることから、この行列は儀式の一部であると考えられる。モーデによれば、王が自らが正統な王位継承者であることを示すために、前のサマルカンド王の慰霊祭を執り行う場面を描かせたという。
サマルカンド壁画のテーマについては、モーデの研究によって大きく前進したが、個々の場面の解釈をめぐっては、いまだ研究者の間で意見が一致せず、様々な提案がなされている。その過程で図像だけでなく、考古学資料、文献史料を駆使した研究が行われ、7世紀半ばのソグドの歴史、宗教の解明にも貢献しているという。
サマルカンド歴史博物館発行の『HALL OF AMBASSADORS』も後者と同じ解釈をしている

10 歴代王の墓廟
『HALL OF AMBASSADORS』は、中国の記録によると、毎年ゾロアスター教の新年の時にソグドの為政者は、首都の東(ゾロアスター教は東と南に天国がある)にある先祖の墓廟に詣でる行列の先頭に立つことが知られているという。
ドームの架かる墓廟で3名の神官が一行の到着を待ち受けているように上の想像復元図に描いている。上図では墓廟のその外側の人物は服装が3人とは異なっている。

墓廟のすぐ近くまで、白い象に乗る人物と3頭の馬に乗る者たちは来ている。

11 ワルフマーン王の妃
同書は、白い象は駕籠を乗せている。その中には高貴な人物が乗っている(この部分は失われている)。それはワルフマーン王の妃に違いない。彼女は3人の若い女性に付き添われているという。
想像復元図では、3人の子供に囲まれた女性が、日除けの下で正座している。
蔵の背中に被せられた大きな円形の敷物には連珠円文の文様があったよう。
12 王妃を護衛する3人の若い女性
同書は、鞍の下には銘文があり、その一つには「高貴な女性」と記されているという。
別の想像復元図では一番下の騎乗者は女性として描かれている。
敷物は連珠円文の縁取りの中に咋鳥文がある。

その後ろの行列
13 ラクダに乗る2人の人物
同書は、木製の崇拝対象物を持っている(ゾロアスター教の供犠の動物が生贄とされる前に、苦痛を和らげる象徴を首に押しつける)という。
彼らは、あるいはその一人はマフラーを後方にたなびかせている。
帯状の髪飾りをたなびかせるのはササン朝のシャープール2世狩猟文杯(4世紀)にも見られるし、隋・開皇2年(592)の虞弘墓出土の棺槨にも見られるが、このように首に巻いたものがたなびいているのは珍しい。
木製の象徴がどんなものか、想像復元図で見ると、小さな棍棒のようなものだった。
白い人物は、首元に連珠円文が見られる。

14 供犠の動物を連れる神官たち
同書は、動物その一は鞍と鐙をつけているが、誰も乗っていない濃灰色の馬。
(儀式)の終わりにはいつも動物の供犠が執り行われた。中央の解釈に間違いがないことを示している。マスクをつけた2人の人物を見ることができる。ゾロアスター教の聖職者たちは、息で聖なる火を汚すことがないように現在でもこのようなものをつけている。ここには神官は描かれていない(男たちは制服を着て武装している)が、犠牲の動物たちに付きそう栄誉に浴するとされる代表者である。鞍を乗せた馬は火葬を暗示し、おそらくミトラ、太陽の神で死者を裁く者のために使う予定であるという。
ズルヴァンはゾロアスター教の時間の神
想像復元図では、虞弘墓出土の棺槨の馬にもみられるように、馬の肢にリボンを結んでいる。これはササン朝にはない、ソグド独特の習慣だった。
同書は、もう一種の動物は銘文にある4羽の鵞鳥であるという。
『偉大なるシルクロードの遺産展図録』は、ゾロアスター教にも組み込まれているブラフマン(梵天)の眷属とされるインドの白い鵞鳥を追い立てる人物が続くという。

15 ワルフマーン王
同書は、黄色い馬に乗る、大きな人物はエナメルのビーズで作られたメダイヨンで留められた赤い長衣を纏って、豹の毛皮を掛けているのは、紛れもなくワルフマーン王その人である。
その位置は北壁の中国の皇帝と点対称の位置に、また、中国の皇后は南壁のサマルカンドの王妃と点対称の位置にあるという。
白い象に乗る先頭の人物は、北壁の中国の皇后と点対称の位置に描かれているので、王妃ということになるという。
想像復元図では、王の馬も肢にリボンを結んでいる。
高宗の皇后と言えば則天武后ということになる。則天武后の図像については次回

その後ろ
16 護衛の騎馬兵
3人ずつ2列になって、王の警護をしている。
 アップすると、着衣に連珠円文の文様が浮かんでくる。
想像復元図では、連珠円文の中に咋鳥や、クジャクのような尾羽が見えたりしている。

別の想像復元図では、それぞれの人物の衣裳が華やかに再現されている。それについては後日

サマルカンド歴史博物館3 宮殿の壁画1← →サマルカンド歴史博物館5 宮殿の壁画3

関連項目
アフラシアブの丘が遺跡になるまで
アフラシアブの丘を歩く
サマルカンド歴史博物館1 ソグドの人々の暮らし
サマルカンド歴史博物館2 サーマーン朝の建築装飾
連珠円文は7世紀に流行した
連珠円文は7世紀に流行した2
連珠円文の錦はソグドか
中国のソグド商人

※参考文献
「中央アジアの傑作 サマルカンド」 アラポフ A.V. 2008年 SMI・アジア出版社
「AFROSIAB」 2014年 Zarafshon
アフラシアブ博物館絵葉書
『HALL OF AMBASSADORS』という小冊子
「ソグド人の美術と言語」 曽布川寛・吉田豊編 2011年 臨川書店
「偉大なるシルクロードの遺産展図録」 2005年 株式会社キュレイターズ